ワークショップ


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臨床心理士 誉田俊郎 ほんだとしろう

京都大学独文科卒。
夢分析のスペシャリスト。
故河合隼雄氏に師事し、ユングを学ぶ。
関西を中心に20年以上カウンセラーとして活動。
メンタルケア天王寺所長タウンページURL
著書:「夢の不思議」(朱鷺書房)

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親子で描く手描きアートワークショップについて

描くことが与える子どもへの良い影響

image09-1.jpg外界にある物を単に模写(写生)する作業と心の内から自由に湧いてくるイメージ(いわゆるファンタジー)を描くこととの間には、大きな違いがあります。 描くという点では共通していますが、模写が基本的に外の対象をそのまま写すだけであるのに対して、心の内から湧いてくるファンタジーを描くことは、既知の イメージを使って、混沌としてはいるが基本的には全体性の獲得をめざす心的エネルギー(これを魂と呼んでもいいのですが)を表現することなのです。この場 合のイメージは、魂が自己を表現する「ことば」みたいなものなのです。いわゆる概念語は心のほんの一部しか表現できませんが、イメージは心の姿や動きを直 接的にありのままの姿で伝えてくれます。しかもイメージは概念語と違って心に響くのです。このようにイメージによる表現が心に響くときは、そのイメージが 神話的で元型的なイメージを含んでいることが多いものです。このことは手塚マンガやその他のマンガに神話的なイメージが多く見られることからも、よく分か るのではないでしょうか。だから人間の心は、イメージ——神話的イメージを産出する不思議な力が備わっていると見ることが出来ます。
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面白いことに、「こころ」は、イメージによって自己を表現することによって、まさにコロコロと転回し動き始める のです。一つのイメージでその時点における自分を表現し終わると、心は必ずそこから動きます。しかもそれは単なる変化ではなく、新しい可能性の獲得と統合 に向かっての動き、つまり「成長」への動きなのです。具体的に言えば、心は新しく到達した自分の境位を再びイメージとして形に表現したくなります。このよ うに自己表現と成長が不可分に結びついているのが、「こころ」の特徴だと言って差し支えないでしょう。  心理療法で心をイメージで表現する「イメージ療法」が一定の重要な役割りを演じるのもそのためです。 特に子どもは言語による自己表現が未熟なだけに、その心理療法において箱庭や自由画やコラージュなどによる自己表現が、大きな役割りを果たしていることは よく知られています。
このアートワークショップにも、当然このような心の成長を促すような、そして時には傷ついた心を癒すような創造的な、治療的な働きが含まれるであろうことは容易に考えられるのです。

このワークショップではまず最初に、描く作業の手慣らしとして、絵の具を画用紙の上に自由にアトランダムに塗りたくるという作業が行われますが、このとき 画用紙に出現した無意味なイメージが、実は、子どもの心の中にあるイメージ産出能力を刺激し、その後のイメージ表現の作業を容易にしていることにも注意を 向けたいと思います。臨床心理学の世界で行われるロールシャッハテストでは、無意味なインクの染みを見て何を連想するかによって、心の深層を探ります。
このワークショップで行われる絵の具のアトランダムな塗りたくりは、どこかこのロールシャッハの図版が被験者の心に与えるのと似たイメージ産出能力への 刺激を、ワークショッブに参加した子どもたちに与えるものと考えられます。しかも彼らはそこで触発されたイメージを言葉で片付けてしまうのではなく、イ メージそのままに表現しょうとする点が、ロールシャッハテストとは決定的に異なります。

親子の共同作業でイメージを描くことの意義

image08.jpgこのアートワークショップのもつもう一つのユニークな点は、ある一つのイメージを親子の共同作業で描くということにあります。多分この際、親子が別々の イメージを描こうとしてぶっつかるような場合は、親の方がわが子のイメージに合わせようとするのが普通であろうと考えられます。実はこのように子どもの心 の動きを汲み取ってそれに親——普通母親ですが——同調しようとする心の働きは、幼児期における親子関係において最も重要なものなのです。発達心理学では このことを「情動調律」と呼んでいますが、これはわが子の喜びや驚きや不安など表情や身体の動きを伴った情動反応に対して、母親が無意識裡に同調して同じ 情動反応をして返す働きです。つまり母親がわが子の心の動きを鏡のように映し出して反射することです。このような母親の鏡像的な応答が子どもを安心させ、 心の芯を形成し、その成長を促す決定的な役割りを果たすのです。
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不幸にして母親の方にこの共感的能力を欠く状況があるような場合には、その子どもの成長の上に大きなマイナスの影響が出ると言われています。アートワーク ショップで、親が自分の描きたいイメージを前面に押し出して、子どもが描こうとするものを潰そうとするような場合は要注意だと言えます。その場合は、何ら かのフォローが必要であろうと思われます。
しかし、まずそのようなことはないのではないでしょうか。何故なら母親と子どもは無意識レベルで一体化していますから——そこに話し合いが多少でも加わる となれば——、子どもの無意識の深層から湧いてくるファンタジーを母親がキャッチし損なうことは先ず考えられないからです。そして母親がわが子の描こうと するファンタジーを補足強化する役割りを果たせば、最も深い意味での「情動調律」が行われることになります。このことは親子の絆を強め、子どもの成長を促 すことにつながるのではないでしょうか。

しかもそのようにして描いたイメージをTシャッに染めあげて着るわけですから、単に画用紙の上に描くだけの作業止まりでその後目に触れることのない場合 とは、影響の大きさでずいぶん違いが出てくるのではないでしょうか。具体的にいえば、このTシャッを身につけている子どもは、いつか必ず別のイメージを描 きたくなるのでないかと思われるのです。これが心の内的な成長のサインであることは言うまでもありません。

ともあれ、この親子で描く手描きのアートワークショップの試みが秘めている可能性は中々のものであり、今後の発展が大いに期待できそうです。

臨床心理士 誉田俊郎